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トコジラミは吸血せず何日生きるか──放置して消えない理由

「しばらく家を空ければ、餌がなくなって消えるのでは」——この期待は、数字を見ると成り立ちません。

東京都ペストコントロール協会の機関誌088号によれば、トコジラミの飢餓耐性は10℃以下で2年です。そして、温度が低いほど長生きします。 つまり「寒くなるまで待つ」という発想は、待ち時間を延ばす方向に働きます。

吸血せずに生きられる期間

機関誌088号(2024年7月・特集「トコジラミの生態、防除方法」)の記載を、そのまま表にします。

温度条件吸血せずに生存する期間
23℃以下雄で85日、雌で69日
13℃以下約1年
10℃以下2年

足立区の公式ページ(2021年4月更新)も、条件により吸血せずに6ヶ月以上生存すると案内しています。出典が違っても、桁は月単位・年単位で一致しています。

23℃以下で2〜3ヶ月というだけでも、旅行や出張で空ける期間を大きく超えます。ましてや13℃以下で約1年、10℃以下で2年です。空き家にして放置しても片づきません。

「冬まで待つ」が逆効果になる理由

低温が生存期間を延ばすというのは、直感に反するかもしれません。しかし表のとおり、23℃以下より13℃以下、13℃以下より10℃以下のほうが長く生きています。活動が鈍るぶん消耗が少ないという関係が考えられますが、機関誌088号は温度と飢餓耐性の数字を示しているだけで、その理由は書いていません。ここで押さえるべきなのは機序ではなく、寒くしても生存期間は縮まらないという数字のほうです。

同じ機関誌は、発育速度についても温度との関係を示しています。

温度卵から成虫までの期間
27℃31日
18℃128日
15℃239日

卵期間は25℃で約5日です。暖かいと世代交代が速く、寒いと個体が長生きする。 どちらの季節にも、放置が有利になる条件はありません。

暖房を入れている部屋は、冬でも27℃側の条件に近づきます。冬になれば止まるという前提は、現代の住宅では成り立ちにくいと考えたほうがよいでしょう。

増える速さのほうも見ておく

機関誌088号は産卵についても書いています。「毎日5〜6個を産み落し、一生の産卵数は500個に達する」。

1匹あたり500個という数字と、27℃で31日という発育期間を並べると、放置している間に何が進行するかが見えます。減るのを待っている時間は、増えるための時間でもあります。

なぜ薬剤で早く止められないのかについては、抵抗性の実測データがあります。市販の殺虫剤が効かないトコジラミに、地域別致死率の数字をまとめました。

持ち込む・持ち出すという経路

厚生労働省の資料「衛生害虫トコジラミに対する対策について」(令和5年度生活衛生関係技術担当者研修会、2024年2月)は、トコジラミが人の荷物によって運ばれることと、コロナ後の人流拡大を背景として挙げています。東京都北区のトコジラミの相談が増えています(2024年2月更新)も「旅行先から自宅へ持ち込むことや手荷物に紛れて持ち帰ることで被害に遭う場合もあります」としています。

ただし、荷物だけが経路というわけではありません。同じ厚労省資料は、天井やコンセントの穴などに痕跡が見られる場合、上下左右の隣室にも生息している可能性があるとしています。集合住宅では、自分の荷物の管理だけで完結しない場合があるということです。

先に断っておくと、特定の宿泊施設や地域を名指しで警戒する書き方はしません。 抵抗性の分布に地域差があることは機関誌088号の測定でも示されていますが、それは採集地ごとの個体群の性質の話であって、どこかの街や施設を避ければ安全になるという意味ではありません。実際、厚生労働省の資料(2024年2月)にあるとおり、相談件数は2017年から2023年にかけて約100件/年度から900件以上/年度へ増えています。特別な場所の問題ではなくなりつつあります。

現実的にできるのは、荷物の扱いを変えることです。

場面やっておくこと
宿に着いたとき荷物を床やベッドに広げる前に、寝具の縫い目やヘッドボード周辺を見る
滞在中スーツケースを開けたまま床に置かない。荷物置き台を使う
帰宅したとき玄関や浴室など、限られた場所で開梱する。寝室でスーツケースを開けない
帰宅後の衣類洗える物は洗う。乾燥機を使える物は高温乾燥にかける
引越しのとき中古家具・段ボールをそのまま寝室に入れない

この表のもとになっているのが、前掲の厚生労働省の資料にある「自宅にトコジラミを持ち帰らないために」という一枚です。宿泊施設では、入室後にベッド周辺・ソファ・クローゼットなどでトコジラミサインをチェックし、怪しければ別の階の部屋への交換を要求すること、旅行バッグはバゲージラックの上や浴室へ置き、脱いだ衣類はビニール袋などに入れて保管すること、消灯後にいったん照明を付けて徘徊している虫がいないか確認することが挙げられています。帰宅後については、旅行バッグ内をチェックして必要に応じて殺虫処理を行うこと、「着ていた衣類や洗濯物は直接洗濯機に入れ、すぐに洗濯」することが示されています。なお、引越しのときの中古家具や段ボールの扱いについては、同資料に該当する記載はありません。

熱を使う場合の温度と、その届かなさについてはトコジラミは49℃1分で死ぬで詳しく書きました。帰宅後に洗濯・乾燥を回すという対応は、この記事の内容と直結します。

持ち込まれた後に定着するかどうかという点では、ゴキブリの侵入と定着の話が構造として近いです(クロゴキブリとチャバネゴキブリ)。

誰が責任を負うのか──ニューヨーク市の制度

集合住宅で発生した場合、日本では「まず自分で何とかする」ところから話が始まりがちです。ここで、厚生労働省の資料が紹介している海外の制度を挙げておきます。

同資料には、ニューヨーク市が条例によりトコジラミ駆除の責任を家主に負わせ、蔓延状況を借主に開示することを義務化していると記されています。

日本にこれと同じ仕組みはありません。東京都北区の公式ページにも、区による駆除の実施や費用助成の記載はなく、案内されているのは東京都ペストコントロール協会への相談と複数業者からの見積もり取得です。足立区のページも同様に、区が費用を負担するとは書いていません。

つまり日本では、費用も判断も居住者側に寄っているのが現状です。制度に頼れないぶん、契約前の確認が重要になります。害虫駆除の広告表示をめぐるトラブルの構造は「550円〜」が十数万円になる仕組みにまとめました。

日本で業者に頼む場合、依頼先を資格で選べる仕組みがありません(害虫駆除に公的な資格・登録制度はあるのか)。相談件数の全体像は害虫駆除の相談は5年で2.7倍・20代が最多にあります。

この記事の要点

  • 機関誌088号(2024年7月)の飢餓耐性は、23℃以下で雄85日・雌69日、13℃以下で約1年、10℃以下で2年
  • 足立区は、条件により吸血せずに6ヶ月以上生存すると案内している
  • 温度が低いほど長生きするため、「冬まで待つ」「留守にして餓死させる」は成り立たない
  • 発育は27℃で31日、18℃で128日、15℃で239日。卵期間は25℃で約5日
  • 産卵は毎日5〜6個、一生の産卵数は500個に達する
  • 移動は荷物経由。宿での確認と帰宅後の開梱場所で経路を絞れる
  • 厚労省資料は、ニューヨーク市が条例で駆除責任を家主に負わせ蔓延状況の開示を義務化していると紹介している。日本に同種の制度はない

自然に減るのを待てない相手だと分かったら

時間が味方にならない以上、発生源に手を入れるしかありません。作業の範囲と再訪の条件を書面で確認し、複数社を比べたうえで依頼先を決めてください。

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